解説記事

社内ヘルプデスクの導入効果を、上司にどう説明するか

導入前の2週間に問い合わせの件数と対応時間を記録し、導入後の同じ数字と並べて説明します。記録表、上司に見せる4つの数字、報告の文例、上司に聞かれやすい質問への答え方をまとめました。

2026年9月14日公開

担当者が簡単な棒グラフの資料を上司に見せて説明している

社内ヘルプデスクやAIの問い合わせ窓口の効果を上司に説明するときは、導入前の数字を自分で取るところから始めます。問い合わせの件数と対応にかかった時間を2週間記録し、導入後に同じ方法で取った数字と並べれば、それが説明の材料になります。まだ導入前で比べる数字がないなら、何を、いつ、どう測って続けるかを説明します。削減率や金額を先に約束する必要はありません。

説明できる数字がないのは、記録がどこにもないからです

廊下で同僚に質問され、何もメモを取らずにその場で答えている担当者

「上層部に説明できる数字がない」という悩みは、導入を検討する担当者からよく聞きます。原因ははっきりしていて、社内の問い合わせはたいてい記録されていません。

チャットで聞かれ、廊下で聞かれ、電話で聞かれる。担当者は答えて、自分の仕事に戻ります。受付の仕組みがない限り、件数も時間もどこにも残りません。だから「忙しい」とは言えても、「どれくらい忙しいか」は言えないのです。

上司から見れば、数字のない相談は判断のしようがありません。まず今の状態を数字にします。

導入前の2週間、問い合わせを記録する

記録は表計算ソフトの1シートで足ります。問い合わせが来るたびに1行書きます。

日時 部署 手段 質問の要約 分類 対応時間 結果
【9/1 10:20】 【営業部】 チャット 経費精算の締め日 答えが決まっている 【○分】 その場で回答
【9/1 14:05】 【製造部】 電話 家族を扶養に入れる手続き 確認が要る 【○分】 翌日に回答
【9/2 9:40】 【総務部】 口頭 共有フォルダが開けない 他部署へ 【○分】 情シスに依頼

続けるために、次のことを決めておきます。

  • 時間は5分単位の目安でよい。正確さより、2週間続けることを優先します
  • 立ち話で聞かれたものも書く。記録から最も漏れやすい経路です
  • 分類は「答えが決まっている」「確認が要る」「他部署へ」の3つに絞ります

「答えが決まっている」は、経費精算の締め日を聞かれたらパスワードを忘れたと言われたらのように、誰が聞いても同じ答えになる質問です。「確認が要る」は、家族を扶養に入れたいと言われたらのように、社員の状況を聞かないと答えられない質問です。

記録するときの分類の決め方
誰が聞いても同じ答えになる質問か
  • はい
    「答えが決まっている」と書く
  • いいえ
    自分の部署で答える質問か
    • はい
      「確認が要る」と書く
    • いいえ
      「他部署へ」と書く

記録した2週間に月末の締めや年末調整などの繁忙期が入っていたら、表の余白にメモしておきます。導入後に比べたとき、数字の違いが時期によるものかを説明できるようにするためです。

上司に見せる数字は4つに絞る

記録から出す数字は、多すぎると伝わりません。次の4つで足ります。

数字 出し方 上司にとっての意味
問い合わせの件数 2週間の行数を月あたりに直す 担当者の仕事のうち、どれだけが問い合わせか
対応時間の合計 対応時間の列を足し、月あたりに直す 本来の業務に使えていない時間
答えが決まっている質問の割合 分類が「答えが決まっている」の件数を全体で割る 仕組みで減らせる余地がどれだけあるか
よく来る質問の上位10件 質問の要約ごとに件数を数えて並べる 何から手をつけるか

3つめの割合が高いほど、FAQやAIで受けられる範囲が広いことを示せます。反対に「確認が要る」ばかりなら、窓口の仕組みより社内ルールの整理が先かもしれません。そう書いたほうが、上司は数字を信用します。

金額に直すかどうかは、上司の求めに合わせます。直すなら「対応時間の合計×時間あたりの人件費」で出せます。その場合は、使った単価の出どころを書き添えます。浮いた時間がそのまま人件費の削減になるわけではないので、「本来の業務に回せる時間」として示すほうが実態に合います。

報告の文例

印刷した報告書をペンで確かめる担当者

上司への報告は、今の状態、やりたいこと、測り方、判断の時期の順に書くと読まれやすくなります。【】は自社の数字や日付に置き換えます。

上司への報告を書く順番
  1. 1今の状態(件数と対応時間)を書く
  2. 2やりたいことを書く
  3. 3導入後の測り方を書く
  4. 4続けるかを判断する時期を書く

総務への社内の問い合わせを【9月1日から2週間】記録しました。件数は【○件】、対応時間は合計【約○時間】で、月に直すと【約○時間】です。

このうち【○割】は、経費精算の締め日やパスワードの再設定など、答えが決まっている質問でした。よく来る上位10件で、全体の【○割】を占めています。

そこで、答えが決まっている質問に社員が自分で答えを得られる窓口を【3か月】試したいと考えています。導入後も同じ方法で2週間記録し、件数と対応時間を比べたうえで、続けるかどうかを【12月末】にご相談します。

この文例では、効果の見込みを数字で書いていません。書いているのは、今の数字と、あとで比べる方法だけです。導入前に見込みの数字を書くと、それが目標として扱われ、達成できたかどうかだけで評価されやすくなります。

上司に聞かれやすい質問と答え方

報告すると、たいてい次のような質問が返ってきます。答えを用意してから持っていきます。

聞かれること 答え方
で、いくら浮くの? 対応時間の合計を示し、「この時間を【月次決算の準備】に回します」と使い道で答える。金額を求められたら、単価の出どころを添えて試算する
人を減らせるの? 約束しない。「問い合わせが増えても今の人数で受けられるようにする」と答えると、導入後に数字で確かめられる
AIが間違えたらどうするの? AIに答えさせない話題と、担当者が回答を確認する範囲を決めていると伝える。最初の数週間は確認の手間が増えることも先に言う
社員はITが苦手だけど、使うの? 普段使っているチャットツールから聞けるか、使い方を誰が案内するかを答える。使われているかは、導入後の記録の件数で確かめる

「社員のITリテラシーが低い」という心配は、担当者自身も持っていることが多いはずです。ここは隠さず、「使われなかった場合は3か月後の記録でわかる」と答えておくと、試すことへの抵抗が小さくなります。

数字に出にくい効果は、出来事として数える

定時を過ぎたオフィスで、スマホに届いた答えを見てほっとする社員

問い合わせの受け方を変えたときの効果には、件数や時間に表れにくいものもあります。「社員の満足度が上がった」と書いても、上司の判断材料にはなりません。数えられる出来事に置き換えます。

  • 担当者の休みの日や、定時を過ぎてから来た質問に答えが返った件数
  • 担当者が会議や外出で席を外している間に来た問い合わせの件数
  • 異動してきたばかりの担当者が、前任者に聞かずに答えられた質問の件数

どれも、導入前の記録に「受けた時刻」と「誰が答えたか」の列があれば、あとから数えられます。記録を始める前に、この2列を足しておきます。

避けたい説明の仕方

  • サービス提供会社の資料にある削減率を、自社の見込みとして書く。問い合わせの中身が違えば数字は変わります
  • 導入から1週間の数字で判断する。最初は準備と確認の作業が上乗せされるので、手間が増えて見えます
  • 「問い合わせがなくなる」と説明する。状況を聞かないと答えられない質問や、担当者が直接受けるべき相談は残ります

どれも、導入直後は通りやすい説明です。困るのは半年後、実際の数字と比べられたときです。

試したあとの報告も、同じ形で書く

試験期間が終わったら、最初の報告と同じ数字を同じ順番で並べます。思ったほど減らなかったときも、形は変えません。

【10月1日から2週間】、導入前と同じ方法で問い合わせを記録しました。担当者が自分で答えた件数は【○件から○件】、対応時間は【約○時間から約○時間】でした。

一方で、AIの回答を確認する時間が【約○時間】かかっています。確認している回答のうち、実際に直したのは【○件】でした。次の3か月は確認の範囲を規程に関わる質問に絞り、同じ方法で記録を続けます。

減らなかった理由と次に何を変えるかが書いてあれば、上司は続けるかやめるかを判断できます。数字がよくなかったことより、判断の材料が出てこないことのほうが、次の相談を通りにくくします。

最初の報告と、試したあとの報告
最初の報告試したあとの報告
記録の取り方導入前に2週間記録する導入前と同じ方法で2週間記録する
並べる数字件数と対応時間最初の報告と同じ数字を同じ順番で
最後に書くこと続けるかを相談する時期減らなかった理由と次に変えること

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