社内問い合わせAIを入れて失敗するのは、答えの元になる文書を用意しないまま入れる場合、今までの問い合わせ窓口を残したままAIを足す場合、入れたあとに文書を直す人を決めていない場合の3つです。1つ目は入れた直後に、2つ目は2〜4週間後に、3つ目は3か月ごろに現れます。どれも製品の性能ではなく、社内の段取りで決まるので、提案を受けた段階で確かめられます。3つの兆候と、相手にそのまま聞ける質問、避けるための段取りをまとめました。
3つのパターンは、現れる時期が違います
同じ「使われなくなった」という結果でも、原因が違えば直し方も違います。現れる時期と最初の兆候を並べると、自社がどこでつまずいているかが分かります。
3つのうち、入れる前に手を打てるのは1つ目と2つ目です。3つ目は入れたあとに効いてくるので、契約の前に決めておかないと、あとから誰の仕事にもなりません。
パターン1 読ませる文書を用意しないまま入れてしまう
いちばん多いのが、AIに読ませる文書がないまま始めてしまう場合です。問い合わせAIは社内の文書を元に答えるので、文書がなければ「分かりません」が返り、質問はそのまま担当者に届きます。担当者から見ると、間に1つ手順が増えただけになります。
提案のときには気づきにくいです
提案の場では「社内の文書を読み込ませるだけで使えます」と説明されます。これは製品の説明としては正しく、読ませる文書がある会社では実際にそうなります。抜けているのは、その文書が自社にあるかどうかの確認です。
社員から来る質問の答えは、就業規則、経費規程、社内のマニュアル、過去に送った案内メールのどこかにあります。ところが、担当者の頭の中と個人の受信箱にしかない会社も珍しくありません。「前に誰かに答えた内容」は、文書ではないのでAIには渡せません。
就業規則があるかで見当がつきます
答えの元がどれだけあるかは、就業規則があるかで見当がつきます。労働基準法第89条は、常時10人以上の社員を使用する使用者に、就業規則を作成して行政官庁に届け出ることを義務づけています。変更したときも届け出が必要です。
同条が記載を求める事項には、始業と終業の時刻、休憩時間、休日、休暇が入ります。賃金の決定と計算と支払の方法、賃金の締切りと支払の時期、昇給、退職に関する事項(解雇の事由を含む)も同じです。社員が聞いてくる質問の多くは、この範囲に収まります。届け出た就業規則の控えが残っていれば、AIに読ませる最初の1件はそこにあります。
反対に、就業規則が10年前のままだったり、部門ごとの手順が文書になっていない場合は、先に書くほうが早く済みます。全部そろえる必要はなく、よく聞かれる質問10件分で足ります。書く項目は「誰が対象か」「いつまでに」「何を出すか」「どこに出すか」の4つで間に合います。
相手に聞くこと
提案してきた相手には、「うちの場合、何を読ませる想定ですか」と聞きます。答えが「既存の文書を全部」なら、その場で3件だけ名前を挙げてもらいます。挙げられなければ、読ませる文書の当たりがついていません。自社で先に10件書き出してから、もう一度話を聞くほうが判断しやすくなります。
パターン2 今までの窓口を残したまま、AIを足してしまう
2つ目は、メール、電話、口頭の窓口をそのまま残して、AIを4つ目の窓口として足してしまう場合です。社員は今までどおり、いちばん近い人に声をかけます。AIへの質問は最初の数日だけ来て、2週間ほどで1日数件に落ちます。
社員は、早いほうを選びます
社員にとって問い合わせは、仕事の途中で挟む作業です。隣の席に声をかけて10秒で済むなら、チャットに文章を打って待つ理由がありません。AIが正しく答えられるかどうかとは関係なく、聞き方の早さで決まります。
窓口が分かれたままだと、記録も分かれます。経費精算の締め日を聞かれたらのような同じ質問が、口頭とメールとAIに分かれて来るので、どの質問が何件来ているかを数えられません。数えられなければ、どの文書を足すべきかも決まりません。
窓口を1つに絞ってから入れます
先にやることは、質問の受け口を1か所に決めることです。チャットの1チャンネルか、1つのメールアドレスに絞ります。電話や口頭で聞かれたときは、答えたあとに「次からはこちらで聞けます」と一言添えます。
このとき、今までの窓口を突然閉じる必要はありません。3週間ほどかけて、口頭で来た質問を窓口に書き直してもらう案内を続けると、だいたいの質問が窓口に集まります。窓口が1つになってからAIを入れると、AIは新しい窓口ではなく、今ある窓口の最初の受け答えを引き受ける形になります。
相手に聞くこと
「今の窓口を閉じないと使われませんか」と聞きます。社員が普段使っているチャットからそのまま聞ける製品なら、窓口を1つに絞る手間は小さくなります。社員に新しいアプリを入れてもらう形なら、絞る作業を先に済ませておく必要があります。どちらかによって、入れる前にやることの量が変わります。
パターン3 入れたあと、文書を直す人を決めていない
3つ目は、入れたあとに答えの元を直す人を決めていない場合です。入れた直後は答えが合っているので問題が見えません。規程が変わり、締め日が動き、申請の書式が差し替わっていくうちに、AIの答えだけが古いままになります。
古い答えは、間違った答えより厄介です
社員が有給休暇の申請方法を聞かれたらのような質問をして、去年の書式を案内されたとします。社員はその書式で申請し、担当者が差し戻します。1度これが起きると、社員はAIに聞かずに担当者に聞き直すようになります。答えが返ってこないより、古い答えが返ってくるほうが信用を落とします。
周知の義務は、AIに任せられません
規程を直したときに社員に知らせる義務は、会社に残ります。労働基準法第106条は、就業規則などを社員に周知させることを会社に義務づけています。周知の方法は厚生労働省令で定められ、各作業場の見やすい場所への掲示や備え付け、書面の交付が条文に挙げられています。
その厚生労働省令にあたる労働基準法施行規則第52条の2は、方法を3つ挙げています。各作業場の見やすい場所への掲示または備え付け、書面の交付、そして会社の電子計算機のファイルなどへの記録です。3つ目は、社員が記録の内容を常時確認できる機器を各作業場に設置することもあわせて求めています。電子データでの周知は認められていますが、AIが返す答えは就業規則そのものではありません。AIに正しく答えさせることと、規程を周知することは別に扱います。
直す人と直す日を決めます
決めるのは2つだけです。AIに読ませている文書を直す担当者と、直す日です。月に1回、決めた日にまとめて見直す形で足ります。見るのは、その月にAIが答えられなかった質問と、その月に変わった規程の2つです。
答えられなかった質問は、足すべき文書の元になります。共有フォルダが開けないと言われたらのように、答えを返しても担当者の作業が残る依頼は、申請の書式を案内する文書を足せば次から答えられます。
相手に聞くこと
「文書を直す作業は、月にどれくらいかかりますか」と聞きます。あわせて、AIが答えられなかった質問が一覧で残るかを確かめます。残らない製品だと、何を足せばいいかを担当者が思い出しながら探すことになり、見直しが続きません。
3つを避ける段取り
3つのパターンは、入れる前の2週間と、入れたあとの月1回で避けられます。
- 1担当者来た質問を2週間書き出す口頭で来た分も、その場でメモに1行足す入れる前
- 2担当者多い順に10件、答えを1枚ずつ文書にする誰が対象か、いつまでに、何を、どこに出すか
- 3担当者質問の受け口を1か所に決めて社内に知らせる
- 4担当者文書を直す担当者と、毎月の見直しの日を決める
- 5社員いつものチャットから質問する入れたあと
- 6担当者答えられなかった質問を数えて文書を足すその月に変わった規程も同じ日に直す毎月
2週間の書き出しは、紙1枚でもかまいません。日付、聞かれた内容、どこから来たか(口頭、メール、チャット)の3項目で足ります。この記録が、10件の選び方と、入れたあとに減ったかどうかの両方の材料になります。
自社がどのパターンに近いか
次の3つの質問に順番に答えると、先に手を打つところが決まります。
- はい質問の受け口を1か所に絞れるか
- はい文書を直す担当者と見直しの日を決められるか
- はい2週間試して、答えられた質問の数を数える
- いいえ担当者と見直しの日を先に決める
- はい
- いいえ窓口を1か所に絞ってから入れる
- はい
- いいえ先に10件の答えを文書にする
1つ目の質問は、実際に10件を紙に書き出して確かめます。頭の中で「あるはず」と思っていた文書が、探すと見つからないことがよくあります。
2つ目は、社員が普段どこから聞いてきているかを数えます。口頭が半分を超えている場合は、絞るのに3週間ほどかかります。
3つ目は、担当者の名前と日付を書けるかどうかです。「関係者で見直す」のような決め方だと、3か月後には誰も見ていません。
3つとも「はい」になったら、実際の質問でどこまで答えられるかを2週間ほど試して数えます。答えられた質問の数と、答えられずに担当者に届いた質問の数の2つが分かれば、入れる判断はできます。ここで見るのは製品の性能ではなく、自社の文書でどこまで答えが返るかです。
バックオフィスAIエージェントを使う方法もあります。株式会社AutomagicaのカリスマAIは、社員がMicrosoft Teams、LINE WORKS、Google Chatから質問でき、AIが答えられない質問は担当者に届きます。社員が普段使っているチャットから聞けるので、窓口を新しく増やさずに試せます。フリープランがあるので、自社の文書でどこまで答えが返るかを、実際の質問で確かめられます。
