副業をしてよいか聞かれたら

社員からはこう聞かれます
- 週末に知り合いの店を手伝う話が来ているんですが、副業してもいいですか?
- ネットで作ったものを売って少し収入があります。会社に届け出は必要ですか?
- 副業の収入が20万円以下なら、何もしなくていいんですよね?
ひと言でいうと
裁判例では、勤務時間以外の時間の使い方は基本的に社員の自由とされ、厚生労働省のモデル就業規則も、他の会社等の業務に従事できると定めています。会社が禁止や制限を行えるのは、労務提供上の支障、企業秘密の漏えい、競業、名誉や信用を損なう行為に当たる場合です。【就業規則の副業の条項】を確認してから答えます。
副業の相談をしてくる社員は、そもそも認めてもらえるのか、どこまで会社に伝える必要があるのか、税金や社会保険の手続きが増えるのかを気にしています。就業規則を見ないまま「たぶんだめです」と答えると、あとで別の担当者の説明と食い違います。まず自社の規程を確認し、届出として受ける形に持っていきます。
- はい自社の勤務と合わせて1日8時間・週40時間を超える見込みか
- はい副業先の勤務時間を届け出てもらい、通算して管理する
- いいえ届出の内容を確認し、禁止に当たらなければ認めると伝える
- はい
- いいえ自社の業務と競い合う内容か
- はい扱う情報と担当業務を聞き、制限できるかを人事で検討する
- いいえ就業時間の見込みを聞き、健康の状況を報告してもらう
- はい
出典:厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」
答えるときに押さえること
1就業規則にどう書いてあるかを、その場で確認します
副業・兼業に関する裁判例では、労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的に労働者の自由とされています。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」も、裁判例を踏まえれば原則として副業・兼業を認める方向とすることが適当だとしています。禁止や一律の許可制にしている会社には、自社での業務に支障をもたらすかどうかを精査し、そのような事情がなければ認める方向で検討するよう求めています。
モデル就業規則(令和7年12月版)の70条は「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」と定め、届出に基づいて禁止または制限できる場合を4つ挙げています。労務提供上の支障がある場合、企業秘密が漏えいする場合、会社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合、競業により企業の利益を害する場合です。自社の規程がこの形になっているか、「許可なく他の会社等の業務に従事しない」という古い書き方のままかで、返す言葉が変わります。
副業・兼業の相談や自己申告を行ったことを理由に、不利益な取扱いをすることはできません。
2他の会社に雇われる副業は、労働時間を通算します
労働基準法38条1項は「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と定めています。厚生労働省は、この「事業場を異にする場合」には事業主が違う場合も含まれると説明しています。社員が他の会社に雇われてアルバイトをするなら、自社の労働時間と副業先の労働時間を足して、1日8時間・1週40時間の法定労働時間(労働基準法32条)を超える部分がないかを見ます。
所定労働時間を通算して法定労働時間を超える部分は、時間的に後から労働契約を結んだ会社の時間外労働になります。その会社は36協定の範囲で働かせ、2割5分以上の割増賃金を払います(労働基準法37条1項)。副業が始まったあとの所定外労働は、実際に行われた順に通算します。時間外労働と休日労働の合計が単月100時間未満、複数月平均80時間以内という要件は、両方の会社の労働時間を通算して守る必要があります。
副業先の勤務時間を毎日申告してもらう必要はありません。ガイドラインは、1週間分を週末にまとめて申告する方法や、所定労働時間どおりに働いた日は申告を求めない方法を挙げています。負担が大きいときは、両方の会社が労働時間の上限を先に決めておく「管理モデル」も使えます。
3雇われない副業は通算しませんが、働きすぎは見ます
フリーランス、独立、起業、共同経営、顧問、理事のように労働基準法が適用されない働き方は、労働時間の通算の対象になりません。労働基準法は適用されても労働時間の規制が適用されない管理監督者などの場合も同じです。届出を受けたら、雇用契約なのか、請負や委任なのかを先に確認します。契約書の題名ではなく、実態で判断されます。
通算しない場合でも、会社は労働契約法5条の安全配慮義務を負います。ガイドラインは、副業・兼業を行う労働者を使用するすべての使用者が安全配慮義務を負うとしています。全体の業務量や時間が過重だと把握しながら何の配慮もせず、健康に支障が生じた場合が問題になり得るとされています。届出のときに就業時間の見込みを聞き、開始後も状況を報告してもらいます。
4社会保険と雇用保険の扱いを説明します
健康保険と厚生年金保険の加入は、事業所ごとに判断します。自社と副業先の両方で加入の要件を満たしたときは、社員がどちらかの年金事務所と医療保険者を選び、「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を出します。届け出るのは社員本人で、事実の発生から10日以内です。保険料は、両方の事業所の報酬月額を合算して標準報酬月額を決め、それぞれで受ける報酬月額に基づいて按分します。
雇用保険は、同時に複数の会社に雇われていても、生計を維持するのに必要な主たる賃金を受ける雇用関係についてだけ被保険者になります。例外は65歳以上の社員です。2つの事業所(1つの事業所の週の所定労働時間が5時間以上20時間未満)の労働時間を合計して週20時間以上になり、それぞれの雇用見込みが31日以上あるなら、本人がハローワークに申し出て雇用保険に入れます。この雇用保険マルチジョブホルダー制度は2022年1月から試行されているもので、2026年9月時点でも続いています。
5税金の手続きは本人がすることだと伝えます
給与を1か所から受けていて、その給与の全部が源泉徴収の対象となる場合に、給与所得と退職所得以外の所得金額の合計額が20万円を超える人は、確定申告が必要です。副業先からも給与をもらうときは、年末調整されなかった給与の収入金額と、給与所得・退職所得以外の所得金額との合計額が20万円を超えるかどうかで判断します(国税庁「給与所得者で確定申告が必要な人」)。
この20万円は所得税の基準です。住民税は市区町村が扱うので、所得税の確定申告をしない場合の申告の要否は、お住まいの市区町村に確認するよう伝えます。金額の計算や経費の扱いを聞かれたときは、国税庁のページか税務署の相談窓口を案内します。
自社の規程で確認すること
会社によって答えが変わる部分です。社員に答える前に確かめてください。
- 就業規則に副業・兼業の条項があるか、届出制か許可制か
- 届出書の書式と提出先、いつまでに出してもらうか
- 禁止・制限に当たるかを判断する部署と、競業とみなす範囲
- 副業先の勤務時間をどの頻度で報告してもらうか
- 通算した労働時間の上限(管理モデルを使うか)
社内FAQに貼れる回答文例
【】の部分を自社の内容に書き換えて使えます。
Q. 副業をしてもいいですか?何か手続きは必要ですか?
A. 当社では、勤務時間外に他の会社等の業務に従事することができます。始める前に【届出書】を【提出先】へ出してください。届出の内容を確認し、労務提供上の支障、企業秘密の漏えい、競業により当社の利益を害すること、当社の名誉や信用を損なう行為に当たる場合は、禁止または制限することがあります。他の会社に雇われて働くときは、法律上、当社と副業先の労働時間を通算します。副業先の所定労働日、勤務時間、残業の見込みを【届出書】に書き、始めたあとも【報告の頻度】で勤務時間を知らせてください。両方の会社で社会保険の加入要件を満たす場合は、ご本人が「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を事実の発生から10日以内に出す必要があります。税金は、給与所得と退職所得以外の所得金額の合計額が20万円を超えるときなど、ご自身で確定申告をしていただきます。届出をしたことを理由に不利益な取扱いをすることはありません。
続けて聞かれやすいこと
届出をせずに副業をしていた社員がいたら、処分できますか?
就業規則で許可などの手続きを求め、違反を懲戒事由としている場合でも、裁判例には懲戒処分を認めなかったものがあります。形式的に規定に抵触しても、職場秩序に影響せず、会社への労務提供に支障を生じさせない程度・態様のものは、禁止違反に当たらないと判断されています。ガイドラインも、懲戒処分を行うかどうかは、職場秩序への影響などの実質的な要素を考えて慎重に判断するとしています。まず届出を出してもらい、内容を確認します。
副業先でけがをしたら、労災はどうなりますか?
労災保険は、副業の有無にかかわらず、労働者を1人でも雇っていれば加入の手続きが必要です。複数の会社で働く人については、災害が発生していない会社の賃金額も合算して給付額を算定し、それぞれの就業先の業務上の負荷を総合的に評価して労災認定を行うことになっています。自社と副業先の間を移動する途中で起きた災害は、通勤災害として給付の対象になります。
自社と同じ業界の会社での副業も認めないといけませんか?
競業避止の観点から禁止や制限はできます。ただしガイドラインは、自社での業務の内容と副業の内容に照らして正当な利益が侵害されない場合は、同じ業種・職種でも認めるべき場合があるとしています。業種だけで断らず、担当する業務と扱う情報を聞いてから判断します。
答えるときに間違えやすいこと
- 「副業禁止」と書いてある就業規則をそのまま根拠に断ると、原則認める方向で検討するというガイドラインの考え方と合いません
- 相談や自己申告を理由に、評価や配置で不利益な取扱いをすることはできません
- 所定労働時間を通算して時間外労働になる部分の割増賃金は、後から労働契約を結んだ会社が払います。ただし自社で所定外労働をさせれば、自社の時間外労働になります
- 二以上事業所勤務届は社員本人が10日以内に出します。会社が出すものと思い込まないようにします
- 20万円の基準は所得税のものです。住民税の申告が別に必要になることがあるので、市区町村に確認してもらいます