給与明細の見方を聞かれたら

社員からはこう聞かれます
- 控除がこんなに引かれているんですが、これは何に使われているんですか?
- 先月と同じくらい働いたのに手取りが減っています。計算は合っていますか?
- 健康保険料が去年より上がっているんですが、理由を教えてもらえますか?
ひと言でいうと
給与明細は、所得税法231条1項により、給与を支払う人が支払いのたびに交付する書類です。支給、控除、勤怠の3つのまとまりでできていて、控除のうち健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、所得税、住民税は法令に基づいて差し引きます。これ以外を引けるのは、【労使協定】で定めた項目だけです。
明細を持って聞きに来る社員が知りたいのは、「引かれている額が正しいかどうか」と「先月と手取りが違う理由」の2つです。その裏には、計算が間違っているのではないかという不安があります。項目ごとに「何で決まるか」と「いつ変わるか」を分けて説明すると、その場で話が終わることが多くなります。
出典:日本年金機構「厚生年金保険の保険料」
答えるときに押さえること
1明細を支給、控除、勤怠の3つに分けて一緒に見ます
給与明細の様式は法令で決まっていません。所得税法231条1項は、給与等を支払う者は、その金額その他必要な事項を記載した支払明細書を、支払を受ける者に交付しなければならないと定めているだけです。記載する事項は所得税法施行規則100条1項にあり、支払った給与等の金額と、源泉徴収した所得税の額などです。項目名や並び順は会社ごとに違うので、まず自社の明細のどこが何の欄かを一緒に確認します。
勤怠の欄に何が載るかは、労働基準法施行規則54条1項が定める賃金台帳の記載事項が目安になります。記載事項は、賃金計算期間、労働日数、労働時間数、時間外労働・休日労働・深夜労働の時間数、基本給と手当の種類ごとの額、控除した賃金の額です。多くの会社の明細はこの並びに沿っています。
「この欄は何ですか」と聞かれたら、支給か控除か勤怠かをまず答えます。支給は会社が払う額、控除は会社が預かって納める額、勤怠はその計算のもとになる日数と時間です。
2控除のうち、法令で引くものは6つだと伝えます
労働基準法24条1項は、賃金は通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならないと定めています。賃金の一部を控除できるのは、法令に別段の定めがある場合と、労使協定がある場合だけです。この協定は、その事業場の労働者の過半数で組織する労働組合、それがないときは労働者の過半数を代表する者と、書面で結びます。社宅費、財形貯蓄、組合費などは後者なので、労使協定で決めた項目かを確かめてから答えます。
法令で引くのは、健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、所得税、住民税です。健康保険料は、健康保険法161条1項により社員と会社が2分の1ずつ負担します。厚生年金保険料も社員と会社が2分の1ずつ負担し、保険料率は平成29年9月を最後に引き上げが終わって18.3%で固定されています。介護保険料は、介護保険法9条2号の第2号被保険者、つまり40歳以上65歳未満の医療保険加入者だけ、健康保険料に上乗せして引きます(健康保険法156条1項1号)。
雇用保険料は労使で負担の割合が違います。令和8年4月1日から令和9年3月31日までの一般の事業の料率は、労働者負担が1,000分の5、事業主負担が1,000分の8.5、合計で1,000分の13.5です。所得税は源泉徴収です。給与所得者の扶養控除等申告書を出している人には源泉徴収税額表の甲欄、出していない人には乙欄を使い、その月の社会保険料等を控除したあとの給与等の金額で税額を求めます。住民税は、地方税法321条の5第1項により、年税額の12分の1を6月から翌年5月まで毎月引き、徴収した月の翌月10日までに市区町村へ納めます。
3社会保険料は毎月の給与額ではなく標準報酬月額で決まります
健康保険料と厚生年金保険料は、毎月の給与の額ではなく、標準報酬月額に保険料率を掛けて計算します。健康保険の標準報酬月額は、健康保険法40条1項で第1級の5万8千円から第50級の139万円までの等級に区分されています。厚生年金保険は、令和2年9月分から標準報酬月額の上限が32等級の65万円になっています。
等級は毎年1回決め直します。これを定時決定といいます。7月1日現在で使用される全被保険者について、同日前3か月間(4月、5月、6月、いずれも支払基礎日数17日以上)に受けた報酬をもとに、7月10日までに算定基礎届を出します。決まった標準報酬月額は9月から翌年8月までの各月に適用されます。「4月から6月に残業が多いと、秋からの保険料が上がる」と言われるのはこの仕組みのためです。
健康保険料率は都道府県ごとに違い、厚生年金保険料率は全国で一律です。一方で雇用保険料は、その月に払う賃金の額に料率を掛けるので、残業が多い月は雇用保険料も増えます。所得税も、その月の社会保険料等を控除したあとの給与の額で税額表を引くので、月ごとに動きます。
4手取りが先月と違うときは、支給と控除の両方から探します
支給の側で動くのは、残業や深夜勤務、休日勤務の手当です。労働基準法37条1項は、時間外労働と休日労働について、2割5分以上5割以下の範囲内で政令が定める率以上の割増賃金を支払うよう定めています。1か月60時間を超えて延長した時間には、5割以上の割増賃金がかかります。政令が定める率は、時間外労働が2割5分、休日労働が3割5分です。午後10時から午前5時までの深夜労働は2割5分以上の割増になります(同条4項)。勤怠の欄の時間数と突き合わせれば、支給が増減した理由は説明できます。
控除の側が動く月は決まっています。9月は定時決定による標準報酬月額の改定、4月は健康保険料率の改定、6月は住民税の年度の切り替えです。40歳の誕生日を迎えた月からは介護保険料が加わります。昇給や手当の変更で報酬が大きく変わったときは、年の途中でも随時改定で等級が変わります。
通勤手当について聞かれたら、非課税になる限度額があると伝えます。電車やバスだけで通勤している場合は、最も経済的かつ合理的な経路および方法で通勤したときの通勤定期券などの金額が非課税になります。上限は1か月あたり15万円です。超える部分は、支給した月の給与の額に上乗せして源泉徴収します。
自社の規程で確認すること
会社によって答えが変わる部分です。社員に答える前に確かめてください。
- 給与の締め日と支払日、明細を渡す日
- 明細の項目名と、それぞれが何の手当か
- 労使協定に基づいて控除している項目(社宅費、財形貯蓄、組合費など)
- 明細を紙で渡すか、システムで見てもらうか
- 残業代の単価の計算方法と、割増率を法定より高くしているか
社内FAQに貼れる回答文例
【】の部分を自社の内容に書き換えて使えます。
Q. 給与明細の見方を教えてください。控除の欄は何が引かれているのですか?
A. 給与明細は【支給・控除・勤怠】の3つの欄でできています。支給は当社がお支払いする額、控除は当社が預かって納める額、勤怠はその計算のもとになる日数と時間です。控除のうち、健康保険料、介護保険料(40歳以上65歳未満の方)、厚生年金保険料、雇用保険料、所得税、住民税は法令に基づいて差し引いています。健康保険料と厚生年金保険料は、毎月の給与額ではなく標準報酬月額で決まり、原則として毎年9月に改定されます。雇用保険料と所得税は、その月にお支払いする額に応じて毎月変わります。住民税は前年の所得に基づく年税額を12回に分け、6月から翌年5月まで引きます。【社宅費・財形貯蓄など】は労使協定に基づく控除です。思い当たらない金額があれば、【給与担当】までお知らせください。
続けて聞かれやすいこと
介護保険料という欄が急に増えたと言われたら、どう説明しますか?
介護保険の第2号被保険者は、40歳以上65歳未満の医療保険加入者です(介護保険法9条2号)。該当する人は、健康保険料に介護保険料が上乗せされます(健康保険法156条1項1号)。65歳になって第2号被保険者に該当しなくなった月からは、その上乗せがなくなり、一般保険料等額だけになります(同条2項)。自社の給与計算の設定と合っているかを確認してから答えます。
明細を紙でほしいと言われたら、断ってよいですか?
断れません。所得税法231条2項は、本人の承諾を得れば、明細に記載すべき事項を電磁的方法で提供できると定めています。ただし、支払を受ける者から請求があったときは、支払明細書を交付しなければなりません。電磁的方法で提供するには、あらかじめ用いる方法の種類と内容を示して、書面または電磁的方法による承諾を得る必要があります(所得税法施行令356条1項)。
去年の明細をなくしたので再発行してほしいと言われたら?
再発行そのものを義務づける規定はありません。ただし、使用者は、事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金支払の都度遅滞なく記入する義務があります(労働基準法108条)。記載事項は労働基準法施行規則54条1項にあり、明細とほぼ同じ内容です。台帳から同じ内容を出せるので、【再発行の申込先】と【何日かかるか】を決めておき、その手続きとして受け付けます。
答えるときに間違えやすいこと
- 「保険料が上がった」の理由は月ごとに違います。9月は定時決定、4月は健康保険料率の改定、6月は住民税の切り替えと、月から当たりをつけます
- 健康保険料率は都道府県ごとに違います。他社に勤める家族と金額が違うという相談には、この点を先に説明します
- 社宅費や組合費のような法令以外の控除は、労使協定がなければ引けません(労働基準法24条1項)
- 住民税は前年の所得に対する税です。今年の給与が下がっても、6月から翌年5月まで引く額は前年の所得で決まっています
- 計算の細かい話になったら、担当者が当否を判断せず、国税庁のページか税務署の相談窓口を案内します