退職金はいつ振り込まれるか聞かれたら

社員からはこう聞かれます
- 退職金はいつ振り込まれますか?最後の給料と一緒ですか?
- 退職してもう1か月たちますが、退職金がまだ入っていません
- 退職金からも税金は引かれるんですか?
ひと言でいうと
退職金の振込日は法律で一律に決まっておらず、会社の就業規則や退職金規程に定めた支払の時期によります。支払の時期を定めていない場合は、本人から請求があった日から7日以内に支払う必要があります。自社の【退職金規程】で時期を確かめ、見込みの日を本人に伝えます。
社員が知りたいのは、退職金がいつ、いくら口座に入るかです。退職後は収入が途切れることが多く、次の家賃や住民税の支払いに間に合うかを気にして聞いてきます。担当者の側は、自社の規程がどう定めているか、中退共のような外部の制度を使っていないかを確かめてから答えます。
- はい退職金規程に支払の時期の定めがあるか
- はい規程の起算日と期限から見込みの日を伝える
- いいえ請求があった日から7日以内に支払うと伝える
- はい
- いいえ中退共などから直接振り込まれると伝え、本人の請求手続きを案内する
出典:e-Gov法令検索(デジタル庁)「労働基準法」
答えるときに押さえること
1振込の時期は、就業規則の定めで決まります
労働基準法第89条第3号の2は、退職手当の定めをする場合には、適用される社員の範囲、決定と計算と支払の方法、支払の時期を就業規則に記載しなければならないと定めています。退職金をいつ払うかは、この記載がそのまま答えになります。
厚生労働省のモデル就業規則は、支払の時期の条文例を「退職金は、支給事由の生じた日から○か月以内に、退職した労働者(死亡による退職の場合はその遺族)に対して支払う。」としています。解説でも、支払方法と支払時期は各企業が実情に応じて定めるとされています。まず自社の規程を開き、起算日が退職日なのか支給事由の生じた日なのか、何か月以内と書いてあるかを読みます。
支払の時期を定めていない会社もあります。群馬労働局は、退職手当はあらかじめ定められた支払時期に支払うことになるが、支払時期を定めていない場合には請求日から7日以内に支払わなければならないと説明しています。規程に時期の記載がないときは、この7日が目安になります。
2最後の給与と同じ日に振り込まれるとは限りません
社員は最後の給与日に退職金も一緒に入ると思っていることがあります。退職金は毎月の給与とは扱いが違うので、同じ日になるかどうかは規程次第です。
沖縄労働局は、退職金については通常の定期賃金の場合と異なり、あらかじめ特定された支給期日が到来するまでは支払わなくても労働基準法第23条第1項の趣旨に反しないと説明しています。退職から7日以内に金品を返還する同条の定めがあっても、退職金についてはそれだけで即時払いになるわけではありません。請求権も、就業規則などであらかじめ特定された支給時期が来るまでは発生しないとされています。
ただし、制度がある以上は定めたとおりに払う義務があります。茨城労働局は、支給条件が就業規則などで明確に定められていて社員が権利として請求できる場合、退職金は労働基準法第11条の賃金に当たり、支払わなければ全額払いを定めた第24条に抵触すると説明しています。答えるときは「規程では【支給事由の発生から何か月以内】です。今回は【月日】ごろの見込みです」と、根拠と見込みの日を分けて伝えます。
3中退共に入っている会社は、会社からは振り込みません
中小企業退職金共済(中退共)を使っている場合、退職金は会社からではなく、独立行政法人勤労者退職金共済機構から直接、退職した本人の口座に振り込まれます。社員が自分で請求しないと振り込みは始まりません。
請求には、会社から渡す退職金共済手帳のほか、マイナンバー入りの住民票(発行日から3か月以内で、コピーでないもの)と、運転免許証などの身元確認書類が要ります。機構は、請求を受け付けてから書類に不備や不足のない状態で、1か月から掛金の納付方法によっては2か月半程度で支払うとしています。退職した月分までの掛金の入金を確認してから支払うため、納付状況によっては2か月以上かかることもあります。
支払の準備ができると、振込予定日の2週間ほど前に、本人へ「退職金等振込通知書」、会社へ「退職金等支払のお知らせ」が届きます。退職金額と振込予定日は電話やメールでは回答されないため、本人には通知書を待つよう案内します。担当者の側は、退職日までに退職金共済手帳を本人に渡し、請求書の送付先が中退共本部であることを伝えます。
4手取りは、退職所得の受給に関する申告書を出したかで変わります
「退職所得の受給に関する申告書」を会社に出していれば、勤続年数に応じた退職所得控除を使って税額を計算し、その額だけが源泉徴収されます。原則として確定申告も要りません。
出していない場合は、国税庁の説明のとおり、支給額に20.42パーセントの税率を乗じた額が源泉徴収されます。本人は確定申告をすれば差額を精算できますが、振り込まれる額はその分だけ少なくなります。支払う前に申告書を受け取っておくと、この差が出ません。
住民税も退職金から差し引きます。退職所得に対する住民税は特別徴収で、退職手当を支払うときに会社が徴収します。課税する市町村は、退職手当の支払いを受けるべき日(通常は退職した日)の属する年の1月1日現在の住所地です。翌年にまとめて請求が来るわけではないので、そこも説明しておくと問い合わせが減ります。
勤続20年以下の退職所得控除は1年あたり40万円(最低80万円)、20年を超える部分は1年あたり70万円です。金額の見込みを聞かれたときは、この控除を引いた残りの2分の1が課税の対象になると伝えます。
5振り込まれないと言われたときは、3つを順に確かめます
まず、規程に書いた支払の時期が来ているかを見ます。支給事由の生じた日から2か月以内と定めているなら、退職から1か月では期限前です。本人には起算日と期限を示します。
次に、中退共などの外部の制度を使っているかを確かめます。使っているなら、本人が請求書を送ったか、添付書類に不備の連絡が来ていないかを聞きます。機構は不備があれば請求した本人に郵送などで連絡します。
最後に、時効を確かめます。労働基準法第115条は賃金の請求権を5年で時効消滅としており、附則第143条第3項により、当分の間、退職手当以外の賃金は3年と読み替えられます。退職手当の請求権は5年のままです。数年前に退職した人から問い合わせが来たときも、3年で消えたとは答えないようにします。
退職所得の源泉徴収票は、退職後1か月以内にすべての受給者に交付します。振込の確認と合わせて、交付済みかも見ておきます。
自社の規程で確認すること
会社によって答えが変わる部分です。社員に答える前に確かめてください。
- 退職金制度があるかどうかと、適用される社員の範囲
- 退職金規程に定めた支払の時期と、その起算日(退職日か、支給事由の生じた日か)
- 最後の給与と同じ日に振り込むか、別の日にするか
- 中退共や確定給付企業年金など、外部の制度を使っているか
- 「退職所得の受給に関する申告書」をいつ、誰に出してもらうか
- 懲戒解雇などで減額や不支給になる事由の定め
社内FAQに貼れる回答文例
【】の部分を自社の内容に書き換えて使えます。
Q. 退職金はいつ振り込まれますか?
A. 退職金の支払の時期は【退職金規程の条番号】に定めています。【支給事由の生じた日】から【何か月】以内に、ご指定の口座へお振り込みします。最後の給与とは振込日が別になりますので、入金の日付が分かれる点にご注意ください。お振り込みの前に「退職所得の受給に関する申告書」を【提出先】へご提出ください。提出がないと、支給額の20.42パーセントが源泉徴収され、手取りが少なくなります。住民税は退職金から差し引きますので、後日お住まいの市区町村から請求が来ることはありません。退職所得の源泉徴収票は、退職後1か月以内に【交付方法】でお渡しします。
続けて聞かれやすいこと
最後の給与はいつ振り込まれますか?
最後の給与は、退職金とは別に、通常の給与日に振り込みます。給与日が土日祝に当たるときは、就業規則で前倒しか後ろ倒しかが決まっているので、その日付を伝えます。
詳しくは「給料日が土日祝のときはいつ振り込まれるか聞かれたら」をご覧ください。
退職金の源泉徴収票はいつもらえますか?
退職所得の源泉徴収票は、退職後1か月以内にすべての受給者へ交付します。確定申告をする人は退職所得の金額も含めて申告するので、申告の時期までに手元にあるかを確かめてもらいます。
詳しくは「源泉徴収票が欲しいと言われたら」をご覧ください。
退職の手続きで、ほかに出すものはありますか?
健康保険証の返却、社員証やパソコンの返却、雇用保険や社会保険の資格喪失にかかわる書類の受け取りがあります。何をいつ出すかは会社ごとに決めているので、退職の案内で一覧にして渡します。
詳しくは「退職するときに会社へ返すものを聞かれたら」をご覧ください。
答えるときに間違えやすいこと
- 規程に支払の時期の定めがないまま「後日お支払いします」と答えないようにします。定めがない場合は請求があった日から7日以内に支払う必要があります
- 中退共に入っているのに、会社から振り込むと答えないようにします。本人の請求がないと振り込みは始まりません
- 「退職所得の受給に関する申告書」を受け取らないまま支払うと、支給額の20.42パーセントを源泉徴収することになります
- 退職手当の請求権の時効は5年なので、ほかの賃金と同じ3年だと答えないようにします
- 退職所得の源泉徴収票は、令和8年分から税務署への提出範囲が、法人の役員分だけでなく支払が確定した退職手当等のすべてに広がっています